先日、「がんを宣告された人には、不安や抑うつ、せん妄などの精神症状が表れるのはあたりまえ
のこと（自然なこと）」、この言葉を目にした時、２つの受けとめ方があることに気づきました。
ひとつは、あたりまえのこととして捉えてサポートすること、もうひとつは、あたりまえのことと
してそのまま回復するのを待つ（ほうっておくこと）こと、です。私は前者の方ですが、こうして
みると、クライアントさんの状態によってはどちらでもあるのかなぁ…と、あらためて考えさせら
れます。私の場合は、クライアントさんの状態を勝手に想像して、深刻なもの（深刻過ぎるもの）
なので積極的にサポートしなければならない、そんなふうに受けとっている(思い込んでいる）の
かもしれません。
この特集は、「面接」についてのエッセイを集めています。狭い意味での心理療法に限らず、面接
とは何か…私自身がもっている「面接」という枠組みはとても狭いものだ…そんなことに気づかせ
てくれる内容でした。
『子ども、面接室にやってくる』（宮川香織氏）では、母親に連れられてきた女の子との対話を載
せてくれていて、カウンセラーがなにをたいせつにして、どのように応答しているかがわかります。
また、ここにある…「洞察」と「行為」は必ずしも直通でつながってはおらず、その関係は「すべき」
と「できる」の関係に似ているように思う。だから心理的アプローチは、小さい「できる」を積み
重ねていくことで乗りきるような、いわゆる「体育会系」になってもいいんじゃないかと思っている
…ここでは、「洞察」だけで安心するなよ、と言われているような気になるし、そうだよなぁ～と
実感しながら反省するところです。
『中年の面接』（杉林稔氏）では、クライアントさんとカウンセラーの間にあるものを水族館の水槽
のガラス（面）に例えてながら…子どもとの面接では<幼さ>という特権からこの面が成立しないので
大人であるカウンセラーは庇護者になるしかなくなることを、青年との面接では<若さ>という特権か
らこの面が不十分なのでため息をつくしかなくなることもあることを、高齢者は<老い>が特権となっ
て面を維持する力を弱めてしまい（水族館でいえば、騒がしい）バックヤードまで透けて見えてしま
う…このような特権を一切持たないのが中年で、ひたすら正攻法の面接を進めるしかない、ここは、
自分がクライアントになったことを想像しても、カウンセラーとしても、実感としてわかるように思
います。
『保険診療における精神科面接』（井原裕氏）は、挑発的(？)な言葉を並べて、思考を刺激してくれ
ます…これでもかというくらい。「資格や認定はムダではないが、その知識を真の精神療法力に変え
るのは、実際の臨床の場での経験である。…それも単に経験を積むのではなく、つねに考えながら
経験を積まなければならない。その時参照すべきことこそ、師匠から学び、研修で得た知識である。
こうして知識と経験が組み合わさったとき、精神療法家としての能力が１ランク上がるのである」と
か、「投影同一視、スプリッティング、脆弱な自己同一性、これら境界性パーソナリティー障害の
特徴を拾い上げることはできても、それを治療に行かせなければ意味がない」と言い切るところ…
ここは、本を読んだり、セミナーに参加する時に、目の前のクライアントさんやその症状にどうアプ
ローチするかかを考えているか/いないか、気づいたことをセッションで試しているか/いないかで理
解の深さも実力にも差が出ることがわかります（私はまだまだですが）。「（強迫性障害について語
る中で）強迫症状を除去することを目指すのではない。症状の除去への執拗な取り組みは、強迫を治
そうとしてみずから強迫に陥るにすぎない…普段の生活を充実させ、適応状態を改善し、対人状況で
の対処戦略を練り、といった現実指向的なかかわりを続け、「気がついたら確認や洗浄を忘れていた」
というのが理想的な治り方である」…ここなどは、応用行動分析やACTのアプローチそのものです。
『自由な対話の集団面接』（田辺等氏）では、グループA,Bのそれぞれのリーダーのグループへに関
わり方を挙げながら…、メンバをぐいぐいリードするリーダーではなく、メンバーを観察して、そこ
に漂っている雰囲気を感じ取って、その時に疑問に持ったところを、あえて言葉にしてメンバーに返
すリーダーがグループをどのように変えるのかを具体的に教えてくれます。これも、私自身のクライ
シス対応でのグループミーティングをふり返えると、いまさらながら、なるほどと納得できます（こ
れも、私はまだまだですが）。
理解が足りなくて、読み込めていないエッセイが多いのですが、カウンセラーとしての実践経験を
積みながら、それぞれのエッセイが伝えようとしていることのたいせつな意味を理解できるようにな
れればと思います。
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